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Advanced Marine Science
and Technology Society

書籍 「海の姿を測る-海洋計測の原理と進化する技術」 




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書籍情報

発行年月日:2015/12/08
ページ数:176
ISBN:978-4-903473-93-2
定価(税抜):3,400円

編集代表あいさつ

中田喜三郎「海洋計測方法と技術の発展──観測値に接するさいの心がまえ」から抜粋
海洋理工学会は2014年に発足20周年を迎えることができました。記念事業としてなにかしようという意見が寄せられ、理事会で検討が行われてきました。その結果、海洋計測に関するチュートリアル(指導書)を出版することになりました。対象は、海洋学を志す学生、民間のコンサルタント会社等で測定業務に携わる技術者の方がたです。本書は以下に示した五つの計測分野に関する内容で構成されています。

第1部 水温と塩分計測
第2部 流速計測
第3部 濁度計測
第4部 音響計測
第5部 光計測

本書は海洋計測に長く携わってこられた専門家の方がたによって、それぞれの計測分野での解説や課題が紹介されています。これからの海洋計測を担う若い技術者のみなさんに、本書で紹介する知見、経験、課題が引き継がれることを期待しています。

内容

目次

第1部
水温と塩分計測
第1章 BT、XBT、XCTDなどの計測手段の進歩
第2章 温度標準とそのトレーサビリティ
第3章 海洋中の塩分計測

第2部
流速計測
第1章 流速計測の進歩
第2章 流速計の種類と測定原理
第3章 相互比較実験

第3部
濁度計測
第1章 濁度の係わる物理と濁度原因物質の現場測定
第2章 濁度標準と懸濁物質による濁度測定結果の相違
第3章 積分球式における濁度計測の特質と課題
第4章 工事中モニタリングにおける濁度計測の課題
第5章 濁度計はなにをとらえているか
   ──検出方法による反応の差、懸濁物質による反応の差

第4部
音響計測
第1章 水中音響測位──現状と課題
第2章 ハイドロホンの現状と課題
第3章 ジュゴンの生態調査に貢献する音響技術
第4章 環境影響評価における海中騒音測定の現状と課題
第5章 GPS−音響測距結合方式による海底地殻変動観測の現状と展望

第5部
光計測
第1章 海洋における光
第2章 光を用いた環境計測


書評

 海洋理工学会は2014年にその20周年を記念して海洋の観測に関するチュートリアルとも言うべき観測論の本を出版することを計画し、2015年12月に表記の本の発行にこぎつけた。これまでは海洋調査機器に関してはいくつかの書物が出版されてきているが、私は以下の4冊の本を所持している。これらの本は、日本海洋学会の主催する「海と地球環境」(1991年 東京大学出版会)、「海中技術一般」(1992年 成山堂)、「海と環境」(2001年 講談社)、そして東京大学海洋研究所の観測機器室におられた中井俊介氏の「海洋観測物語」(1999年 成山堂)である。中井氏の本を除くとすべて学会が編集した海洋の技術に関する本であるが、それぞれの学会が何かの節目に意気を高めるために出版したものである。海洋学会の本は節目での海洋観測の話であり、中井氏の本は個人が経験してきた数多くの調査航海での観測機器の運用の話であった。 しかし、これらの本が出版された結果海洋の技術に関する分野が栄えてきたかどうかは明らかではない。

 今回出版された「海の姿を測る」は観測機器をここまで詳しく扱っているものは今までなかったので大変貴重である。この本は16名の執筆者からなり、執筆者の出身大学や現在の職場が多岐に亘っていて、それぞれの特徴的な観測論があって面白いが、ここではチュートリアルということで平均的なというか教科書的な解説となっている。観測機器や原理に関する用語解説もある。観測機器の歴史的な変遷と観測の原理が詳細に書かれている。

 海洋の観測は1872-76年に行われたイギリスの「チャレンジャー号」航海が最初であるとされている。あれからすでに140年が過ぎていて、その間に観測機器やそれを使った技術の進歩は目覚ましい速度でなされてきた。さらに当然ではあるがチャレンジャー号で行われた観測に比べて格段に精度も上がっている。

 本書は海洋観測の分野として以下の5つの部に分かれている。それらは第1部が水温と塩分、第2部は流速、第3部は濁度、第4部は音響計測、第5部が光計測の5つであり、それぞれの部は2〜5の章に分かれている。それぞれの章が異なった著者で書かれている。


 まず第1部では水温と塩分の計測が述べられている。これは海洋を考える上で基本的に重要な項目である。第1章では温度計の開発や海洋での機器の進歩の跡が詳しく述べられている。最近開発された使い捨てタイプのBT,XBT,XCTDなどの機器に関する原理や機器の構成が書かれ最後に総合プロファイラーのことが書かれている。

 第2部では流速計測のことが書かれている。流速測定の原理、開発の歴史が詳しく書かれていて、大変興味深い。最後に電磁流速計や超音波流速計のことが述べられている。第2章では様々な流速計の種類とその原理が書かれている。そして第3章ではそれぞれの機器で観測されたデータの比較が行われている。そして観測者がそれぞれの機器の特性などをよく理解して評価することが大切であると述べられている。

 第3部では濁度の計測にページが割かれている。濁度は非常に計測が難しい物理量である。ここでは濁度の現場計測やさまざまな方式による観測の例が示されていて、そもそも濁度とは何をとらえているのかで水槽実験や現場計測の例を示している、計測の精度の問題はあるが実験で大きな手間を掛けるよりは多少精度が低くても現場で手軽に行う方が時間的、空間的に優位であると結んでいる。

 第4部は音響計測である。まず水中音響測位の原理とその方式、音響を受けるハイドロフォンの解説と現場での実際について述べられている。特に水中音響測位の現状と課題はもと同僚であった門馬大和氏が書かれたもので歴史的な流れも含め簡潔に要領よく書かれている。音響計測は一例としてジュゴンの生態を研究する上でも重要で、その結果バイオロギングへ発展する可能性が指摘されている。また音響計測の一つの応用として、GPSによる海底地殻変動の観測に関する現状が紹介されている。筆者に関係の深い部分で非常に興味深く読むことができた。

 最後の第5部では光計測が扱われている。光の一般的な原理からそれを用いた環境計測の実態が示されている。特に海底の熱水地域におけるチムニーの林立する海域での海底の詳細な計測は大変興味深い。

 本書で紹介されている項目のどれもが地球温暖化や海底の環境などに関してきわめて重要な項目である。それぞれの章では、そもそもの定義、観測機器の歴史が述べられている。さらに観測の原理ともいうべき事柄が詳しく述べられている。そのためにまさにチュートリアルな本であり、この本を読めばおおよその観測に関することは理解できる。ただ現場に即した経験的なことは現場に行かねばわからないことであり、デスクの上での話である。

 観測の現場を担う観測技術員を養う会社がこの海洋理工学会ができた頃に立ち上がっている。観測会社としては日本海洋事業(NME)、グローバルオーシャンディベロップメント(GODI)と(現在は日本海洋事業に一部統合)、マリンワークジャパン(MWJ)などがあって、観測機器の運用に関しては非常に優れた実績を残してきている。これらは現国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)に関連した会社で、JAMSTECが保有する船舶、「かいよう」、「なつしま」、(これら2船はすでにリタイアした)、「よこすか」、「かいれい」、「みらい」、「ちきゅう」などの船でぞんぶんに活躍する観測技術員が育っている。また船に関係した探査機や観測機器の運用も行っている。

 海洋の計測はそれぞれの物理量をどのようにして計測するかという原理が大事であり、そのためにはあらゆる計測機器が考案され、それらの間での精度の向上の問題が永久の課題である。本書は著者が大勢いるためにかえってこれらのことがよく浮き彫りにされているように感じた。最初の海洋計測からいろいろと改良開発されて精度の高い機種が考案されてきた歴史がよくわかる。このことは逆に現在使われている機器が完全なものではなくて、まだまだ改良の余地があることを示している。20年を経た海洋理工学会では本書を上梓することで今後の問題を指摘しているようにも思われる。

 本書で扱われている観測機器は主として物理や化学に関するものが主であるが、生物系や地質・地球物理系のこのような観測機器の本が出されることが望まれる。さらに海洋の観測は一般の方々にはきわめてなじみが薄い。そもそも海洋に関係した技術というものは一般の人々には宇宙における技術以上に知られてはいない。どのような技術がどのようなところでどのように使われているのかは茶の間にはおよそ程遠いものである。そのために学会を通して一般の人向けの海洋のあらゆる分野の観測機器やその運用などに関しての書物が出版されることが望まれる。

 ともあれ2014年までの観測機器の現状がよくまとめられた本であり一読の価値は高いので是非本書を読まれることをお勧めする。編集責任者の中田喜三郎氏は「観測値に接するさいの心がまえ」、若い技術者に本書で述べられている知見や経験、課題が引き継がれることを期待する次第であると述べられているように、筆者も同様に本書が若い人たちに読まれ、その知見や技術が継承されることを望んでいる。

平成28年6月2日
神奈川大学工学部 藤岡換太郎

海洋理工学会

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