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書籍情報
発行年月日:2022/8/18
ページ数:240
ISBN:978-4-06-529098-9
定価(税抜):1,000円
内容
日本が世界有数の地震大国であることは知られていますが、ほかにも火山噴火に台風、そして近年の線状降水帯による異常な大雨と、いったいなぜ、この国にはこれほど自然災害が集中するのでしょうか? じつは地球科学によれば、それは必然であり、日本は世界でも稀な「災害が束になってやってくる国」だというのです。災害が束になると、それはもう「天変地異」です。
しかし地球46億年の歴史をたどれば、もっとすさまじい天変地異の連続でした。日本列島の体積の6倍ものマグマが海底から噴き出し、すべての大陸が一つに合体してはまた分裂し、地球全体が凍りついて一個の雪玉になったこともありました。この間に、生物は何度も大量絶滅を繰り返してきました。
じつは、天変地異にはサイクルがあります。そのサイクルは、より大きなサイクルに呑み込まれ、そのサイクルもまた、さらに巨大なサイクルの歯車の一部となっています。
では、最も大きなサイクルとは何でしょうか? 地球を動かしている究極の原動力とは、いったい何なのでしょうか?
その答えは、宇宙にあるのかもしれない! 「しんかい6500」で深海底に50回以上潜った地球を知り尽くす筆者が、回転木馬に乗りながら考えてたどりついた推論とは? 天変地異を軸に46億年をとらえなおす、かつてないスケールの地球科学!
書評
「天変地異の地球学」、相変わらず意表を突く表題である。藤岡氏も愈々、宗教の領域に立ち至ったかと思ったが、そうではなかった。前著「見えない絶景」では、深海底の絶景を鯨観した。何事もビジュアルな今日、見えないものを言葉で説明するのは中々苦労があったと思われる。これらの絶景が、天変地異によって生まれたとして、本書に繋いでいる。
即ち、地球史の解釈を、天変地異の観点で試みたものである。第3章コラムにあるが、元々地質学では、18世紀以降に主流となった斉一説(Uniformitarianism)以前は、天変地異説または激変説(Catastrophism)が、広く信じられていた。20世紀の終わりに、恐竜の絶滅が、6千5百万年前の巨大隕石の衝突による事がほぼ明らかになり、天変地異説が再浮上したとの事である。
序章では、歴史上の天変地異の定義や種類、原因について述べている。2011年の東北地方太平洋沖地震に関連して、明治三陸沖地震(1896)の年に生まれ、昭和三陸沖地震(1933)の年に亡くなった宮沢賢治が、地震と津波について作品に残していないが、これは内陸の花巻にいた為と述べている。尚、1917年に岩手山が小噴火し、盛岡に火山灰が降った。これをヒントにして、当時頻発した冷害や旱魃に火山噴火を加えて、「ペン・ネンネンネン・ネネムの伝記」(後に「グスコーブドリの伝記」に改題)を書いているので、噴火には関心があった様である。以上、賢治と同郷の者として追記した。
第1章から第4章迄は、時間・空間スケールに応じた天変地異現象について解説している。
第1章で、平安時代9世紀と、江戸時代18世紀に、噴火と地震が集中していると述べている。最近、中学生向けの「方丈記・徒然草・歎異抄」(小学館日本の古典をよむM)を読む機会があった。対訳付きの抄録であるが、方丈記(1212年)には、天変地異の記述が幾つかある。辻風、大火事、旱魃、飢饉の他、大地震の記事があり、その中の東大寺大仏の首落下事件は、表1-2平安時代の地震一覧に見当らないので、大きくはなかったのかも知れないが、参考の為、以下に記す。
「昔、斉衡の頃とか(文徳天皇斉衡年間:854~857)、大地震(おほなゐ)ふりて東大寺仏の御首(みぐし)落ち・・・・」
第4章で、プレート運動による3億年レベルの超大陸の生成と分裂を、プルームによる天変地異と捉えている。本章のコラムで、プルームテクトニクスについて、日本人が提唱した概念が普及していないのは、英文論文ではあるが、外国の主要論文誌に掲載しなかった為と残念がっている。言葉のハンディーは大きい。
天変地異に周期性はないのかを考えたのが、終章である。天変地異には、内的要因と外的要因がある。プルームによって、超大陸の生成と分裂が、3億年周期を持つのが内的要因である。外的要因についてはどうか。そこに、回転木馬説が登場する。著者が実際に、真剣な顔で回転木馬に乗っていると、閃くものがあり、突如飛び降りた。これは、you tubeで注目を集める光景かも知れない。それはさて置き、太陽系が2億5千万年で銀河系を周回する際、4本の渦状腕を通過する。腕を通る際と抜ける際に、2回の変化を受けるので、その間隔は約3千万年となる。即ち、3千万年毎に銀河の影響を受ける。無理やり、3を捻り出した様に見えないでもないが、3億年も3千万年も、規則性を示している。これは、天変地異説の一方で、斉一説への回帰とも云える。形ある物に、周期性、規則性があると考えるのは自然である。渦状腕は、銀河系の中心を回転しているものと思っていたが、そうではない事を知った。
要するに、地球の歴史は、内的および外的要因による天変地異によって時代区分され、その間は斉一的に変化すると云いたいのではないか。
また、著者の時間スケールでは、現代の地球温暖化よりも、2千年後の地球寒冷化の方を危惧している。人類の歴史が、暑さよりも寒さとの戦いであった事を思うと、同感である。著者と意見を異にするかも知れないが、温暖化を避ける為に、エネルギー危機を招くよりは、原発を有効活用すべきである。
「山はどうしてできるのか」(2012年)に始まる本シリーズは、これで第7作目となる。空想地質学を自称するが、空想だけで本が書ける筈はない。藤岡換太郎氏の、努力と執念には頭が下がる。画狂人北斎を意識していると本人から聞いたが、地狂人とも云うべきか。また、原石を拾い、玉に磨き上げた編集者の御苦労に敬意を表する。
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