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Advanced Marine Science
and Technology Society

書籍 「相模湾深海の八景 知られざる世界を探る」 




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書籍情報

発行年月日:2016/06/04
ページ数:216
ISBN:978-4-89660-222-7
定価(税抜):1,000円

内容

 相模湾にはプレートの沈み込み、火山活動、断層運動、関東地震や小田原地震など巨大地震の発生や土石流、斜面崩壊などの現象、地下からの湧水やガスの放出、表層や深海の流れなど海水の移動、陸上の河川からの淡水の流入、黒潮や親潮などの周辺の海水の流入、などの現象が起こっており、そのために多様な生物が棲息することが分かってきた。
 本書は、今もなお変化を続ける相模湾の中で起こっているさまざまな地球科学現象を紹介するとともに、海洋生物の宝庫である相模湾を中心にしたバイオジオパークの設立を提案したものである。

書評

 「箱根路を 我が越え来れば伊豆の海や 沖の小島に波の寄る見ゆ」 金槐集  鎌倉幕府第三代将軍、源実朝が、相模湾に浮かぶ初島を望んで詠んだ歌である。初島は、東海道沿線から良く見える、誠にのどかな島である。
初島沖は、日本初の化学合成生物、生きたシロウリガイの発見場所として、本書にも度々登場する。小生も、1993年に初島沖に深海底総合観測ステーションを構築した者として、深い思い入れがある。

 藤岡換太郎氏は、かねてより、相模湾八景と称して、その魅力を、多くの人に語って来た。「山」、「海」、「川」シリーズ(ブルーバックス)の次は、何が出るか楽しみにしていたが、この相模湾であった。
 著者は、相模湾八景以外にも、新しい名称を考案するのが得意である。第一章の「鯨観図」、第七章「バイオジオパーク」等である。陸上の3次元地形図を鳥瞰図と呼ぶが、海底の3次元地形図を鯨観図と名付けた。陸上は鳥の目で、これに対して、海中は鯨の耳でと云う発想は、中々面白い。しかし、今一つ、世の中に認知されていないのが残念である。

 さて、本書は、まえがきに始まり、第一章から第八章、終章、あとがき、参考図書の構成である。
まえがきで、二通りの読み方を紹介している。相模湾の基礎から知りたい人は最初から、それが面倒な人は、第五章から読んで構わないと云う。
 そこで、試しに第五章から読み始めた。表題にもある様に、本章は、著者が最も力を入れた部分であろう。 相模湾八景は、初島生物群集、海底地滑り、熱川沖の長大溶岩流、沖の山堆の化学合成生物群集、海底谷とごみ、深海底の定点観測、海面変動と地殻変動、深海の歳時記からなる。これで分かる様に、八景とは、単なる風景の紹介ではなく、相模湾の深海に見られる、様々な現象の集大成である。各景の終わりに、自作の短歌を掲げているのは、文学への造詣を示している。
 第一章から第四章は、相模湾八景を理解する上で必要な、地形、地質、地球物理、生物、海洋学的な基礎を学ぶ事が出来る。やや難解な部分は、飛ばして読めば良い。表紙に、相模湾海底地形鯨観図のカラー図版があるので、これを見ながら、地形をイメージする事を御勧めする。
 第六章は、相模湾の成り立ちについて、伊豆島の衝突によって、相模湾と駿河湾が分断され、伊豆半島が形成された過程を述べている。
 第七章は、相模湾を取巻く博物館とジオパークの紹介で、ここでバイオジオパークを提唱している。更に一歩進めて、相模湾に、例えば初島を基地とした、観光・教育用深海潜水船があれば、世界の注目を集めるであろう。
 第八章で、相模湾の生物多様性について、考察している。
 終章では、風光明媚な相模湾であるが、海底火山、地震、津波、台風、水害等の自然災害について、警鐘を発している。

 以上、自身の専門のみならず、多分野の知識を駆使して、本書を表した著者に敬意を表すると共に、多くの人に読まれる事を祈っている。

平成28年6月
海洋理工学会副会長
深海居士 門馬大和