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Advanced Marine Science
and Technology Society

書籍 「三つの石で地球がわかる 岩石がひもとくこの星のなりたち 




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書籍情報

発行年月日:2017/05/16
ページ数:224
ISBN:978-4-06-502015-9
定価(税抜):本体920円

内容

 岩石や鉱物には興味があるけれど、石の名前がどうもややこしくて覚える気になれない……という人は多いようです。 たしかに一般向けの石の図鑑や入門書も、美しい石の紹介にとどまったものや、歴史的・文化的な側面から石を語るものが多く、正面から「石」を論じるものはあまりありません。 それも、石の名前があまりにも複雑で、一般の人にはハードルが高くなるからでしょう。 しかし、地球は「水の惑星」であると同時に、太陽系で最も多い数千種類もの石が存在する「石の惑星」でもあります。それだけに石の世界は科学的好奇心を刺激される深さ、面白さに満ちています。 せっかく地球に住んでいながら、その恩恵を享受しないのは、もったいないことです。 そこで、まったくの石の素人の読者でも、たった三つの石の名前を覚えるだけで石の世界が楽しめるように企画したのが本書です。 「しんかい6500」に51回乗船という記録をもつ、地球を知り尽くした著者が、石の世界のしくみやなりたち、地球の進化と石の濃密なかかわりなどを、三つの石の物語にのせてみごとに描ききりました。 読めば必ず、複雑そうな石の世界が驚くほどすっきりと頭に入り、地球が太陽系で特別な惑星に進化するまでの道筋がわかり、そして石がいとおしくなるはずです。

書評

「三つの石で地球がわかる」とは中々インパクトのある書題である。
地球は石で出来ている。地球を輪切りにすると、金属鉄から成る内核と外核、その周りに橄欖岩のマントル、最も外側に玄武岩の海洋地殻があり、その上に花崗岩の大陸地殻が浮かんでいる。従って、橄欖岩、玄武岩、花崗岩の三種の石を理解すれば地球が分かると云う訳である。小さいのが石(stone)で、大きいのが岩石(rock)と思っていたが、両者に厳密な区別はないらしい。

一つ目の石、橄欖岩は地球体積の82%を占めるが地球深部に存在する為、殆ど馴染みがない。
それがプレートのせめぎ合いによって深部から地表に現れる事がある。アラブのオマーンが最も有名で、日本でも北海道のアポイ岳に露頭が見られる。表紙の写真にある鮮やかな緑の石が純度の高い橄欖岩である。成程美しい、この美しさに魅せられて地質学を志す人の気持ちも分かる。英語名olivineを橄欖岩と訳した由来も面白い。

二つ目の石、地球表面の海洋地殻を構成するのが黒色の玄武岩である。この和名は、天然記念物、兵庫県豊岡市の玄武洞溶岩流から名づけられた。英語名がbasalt。大洋中央海嶺で生まれた玄武岩から成る海洋プレートは、海洋底を移動し、海溝に沈み込む。海溝で沈み損ねて、陸に乗り上げたものは、日本でも各地で見る事が出来る。
富士山、大島、三宅島、ハワイ諸島の火山は玄武岩から成り粘性の低い溶岩を流出する。

玄武岩よりも馴染み深い三つ目の石が、花崗岩、大陸地殻を造る石である。英語名granite。多くの人が、最後に御世話になる御墓も、花崗岩で出来ている。大陸や島弧を形成する岩石の総称を安山岩と呼ぶ。英語名andesiteは、南米チリのアンデス山脈が由来で日本語の安山もその音から取ったものである。
京都出身の著者は「京都と東京は、地面の色が違う」と云う。東京が黒っぽいのは、アスファルトの舗装が多いからと思ったが、そうではなく富士山や箱根の玄武岩質火山灰のせいらしい。東山三十六峰を始め、京都を巡る山々は花崗岩からなり、それが風化して白石や白砂となり、地面が白くなるのである。

第4章と第5章は、岩石の結晶構造と性質に関する話である。三つの石は、SiO4を基本とした構造に、鉄やマグネシウム等が混じって、結晶化したものである。それぞれの成分の割合で、岩石の種類と性質が決まる。
玄武岩も、花崗岩も、元を正せば橄欖岩が母体である。橄欖岩の成因について著者は宇宙成因説を提案している。
即ち、46億年前の超新星爆発によって太陽が誕生し、地球を含む太陽系惑星が生まれた。地球体積の82%を占める橄欖岩が地球誕生後に出来たとすれば、超新星爆発から地球誕生迄の時間が余りにも短か過ぎる。橄欖岩は隕石として存在したのではないか?橄欖岩隕石が存在すればこの疑問が解けるであろう。

序章から第6章迄に、地球の骨格を造る三つの石について、その成因や性質を語っている。
これらはマグマや火山活動によって生まれたものである。しかし未だ忘れているものがあった。それは終章に「他人の石」たちとして火に由来しない石、即ち、水が造った堆積岩や、生物由来の石灰岩やチャートについて述べている。
身近にあるが石の世界は奥が深い。それを素人に分かり易く説明する為に三つの石を代表に選んだ。本書を読んで、「一つの石(or橄欖岩)で地球がわかる」でも良いかと思った。
本書はブルーバックス「山はどうしてできるのか」、「海はどうしてできたのか」、「川はどうしてできるのか」の三部作に続くものである。元素の周期律表、結晶構造や分子式が出て来るがこれらを読み流しても全体の理解に支障はない。

JAMSTECの掘削船「ちきゅう」によるマントル掘削計画がある。何時の日か掘削に成功すれば、緑に輝く橄欖岩の世界を拝めるかも知れない。こう云う夢や空想の楽しみがあるから多くの研究者達は貧乏に甘んじている。地学や地質学は現代科学と文明に多くの貢献を果たして来た。しかし、最近、地学に対する興味が薄れ、自らを絶滅危惧種と卑下する地質研究者もいる。地下、特に地球内部については、未だ未だ謎が多く、資源も眠っている。 行き詰まった地震予知も、地下構造の正確な理解によって、ブレークスルーが生まれると信じている。

以下は余談であるが、一生食いっぱぐれのない医師や建築士に倣って地質士の国家資格を与えてはどうか?
崖っぷちや軟弱な造成地の土地や家屋の安全鑑定を義務付ける。これによって、多くの地質屋の生活が保証され地学への人気も高まる。原発敷地内の断層捜しも大事であるが、もっと身近で生活や安全に役立つ事があるだろう。


平成29年6月
海洋理工学会副会長
深海居士 門馬大和

海洋理工学会

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