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Advanced Marine Science
and Technology Society

書籍 「見えない絶景 深海底巨大地形」 




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書籍情報

発行年月日:2020/5/21
ページ数:240
ISBN:978-4-06-517904-8
定価(税抜):1,000円

内容

いざ、地形のモンスターをめぐる深海底世界一周の旅へ!
深海底には、陸上とは比較にならない巨大地形がひしめいている。地球を2周する長さの巨大山脈、 エベレストを呑み込む深さの海溝、日本列島の数倍もある台地、海底総面積の30%を占める大平原、 月の直径よりも長い大断層……どうしてこんなものができたのか?
さあ、キャプテンフジオカがナビゲートする潜水艇「ヴァーチャルブルー」で、「見えない絶景」を めぐる世界一周の旅に出よう。想像を絶する地形のバケモノたちの成り立ちを知れば、地球の「本当の顔」が見えてくる!

書評

「山はどうしてできるのか」に始まる、ブルーバックスシリーズ第6弾である。
前著「フォッサマグナ」は、2018年刊行で、既に10刷を重ねている。本シリーズ以外にも、多くの著作や企画があると聞く。古希を過ぎた著者のエネルギーと熱意には、頭が下がる。 本書を読み終えて、地球の成立ちと人類の将来について、考えさせられた。 本文の構成は、以下の通りである。
第1章 深海底世界一周 第0景~第十景
第2章 深海底巨大地形の謎に挑む
第3章 プレートテクトニクスのはじまり
第4章 冥王代の物語
終章 深海底と宇宙

 第1章は、深海底の見えない絶景、全10景について、陸上巡検や、潜航体験を交えての紹介である。 著者は、「しんかい6500」による51回の潜航を経験しており、世界の研究者でも、これ程多い人は滅多にいないと思われる。 海溝、海台、海嶺、断裂帯、ホットスポット等、これらが見えない絶景である。陸上と違って、永らく、深海底を俯瞰する事が出来なかった。 1930年、初めて深海を垣間見た人類は、1960年に世界最深部マリアナ海溝チャレンジャー海淵に到達した。それ以来、極く最近迄、潜水船が、深海を観察する唯一の手段であった。 しかし、潜水船で見える範囲はごく僅かである。1970年代後半、マルチビーム音響測深機は、測深に革命を齎した。 これによって、精密海底地形図が作成され、海嶺や海溝の全貌が明らかになった。最近では、数百kHzの高周波で、より詳細な地形が分かる。また、有人潜水船以外にも、 無人のROVやAUVによる深海探査が可能である。この様に、本章は、最新の手法による成果を取入れたものである事を付け加えたい。 欲を云えば、地形図の縮尺が大き過ぎる事、カラーを白黒にしたせいか、やや鮮明さに欠けるのが惜しまれる。 全体図と共に、部分的に拡大した鯨観図があれば、更にインパクトがある。仮想潜水艇「ヴァーチャル・ブルー」について、技術屋の端くれとしては、 研究者の理想的な能力(仕様、スペック)を掲げて欲しかった。持論を云えば、従来の球状ではなく、乗用車やワゴン車の様な、居住性に優れた(四角い)潜水船を目指したい。
それには、新素材の開発が不可欠である。有人潜水船の存続について、著者は危惧しているが、その火を決して絶やしてはならない。 経済性優先の昨今、無人が優勢であるが、宇宙も深海も、有人の必要性はなくならない。 本書の特異な点は、第1章に本文の半分以上を割いている事である。一般の啓蒙書であれば、もう少し肉付けして、図版を増やし、物語風にして、本章だけで完結しても不思議はない。 それは、ジュール・ヴェルヌの「海底二万哩」や、「八十日間世界一周」を例にしている事からも、当初の意図が伺える。 しかし、それでは子供向けの解説書と変わりがない。著者の興味は、深海底の絶景に留まらず、地球の成立ちに及んでいる。
 第2章は、第1章の地球科学的解釈である。第3章、第4章、第5章(終章)は、著者が遠慮がちに云う「想像地質学」の世界である。科学においては、想像や空想は禁物である。 しかし、物的証拠がなければ、想像するしかない。これは、現役の研究者には中々勇気のいる事であるが、自由な立場の著者に、恐れるものはない。
 第3章では、プレートテクトニクス開始初期のプレートが、コマチアイトから成ると云う、独自の解釈を提唱している。これは、月面の斜長岩との対比から類推したものである。
 第4章の冥王代は、日頃聞きなれない名称である。地球46億年の歴史で、その始まりから5億4100万年前迄を先カンブリア時代と呼ぶ。 この時代がそれ程永いのは、区分する地質学的証拠が、殆どないからである。その中で最も古い、46億年から40億年迄を冥王代と云う。 月が誕生し、現在の地球上の出来事が形作られた重要な時代でありながら、良く分かっていない。
 さて、我々の住む地球が、如何にして生まれ、現在の姿になり、将来どうなるか。終章では、その成立ちについて、 斉一説、天変地異説、両者共存説を紹介している。地球史の中で、生物の大量絶滅が5回起きている。46億年の歴史で、 ほんの一瞬、舞台を借りている人類は、どの場面に遭遇して、存在を終えるのであろうか。著者は、それを人類自らが引起す事のない様に、警鐘を発している。
本書を読んで思い至った事がある。一体、物事について、色々考えているのは人間だけであろうか。そうではない、全ての生物は、自身と種を守る方法を真剣に考えている筈である。 その中で、深海底の生物と地殻内生命体こそが、究極の解を得たのではないか。即ち、巨大隕石の衝突、天変地異から生き残る、安住の地を深海底に探り当てた。 彼らは、人間共は何を迷い、悩んでいるのかと思うに違いない。そう云う、悟りの境地にある生物に敬意を表し、地上で晒しものにすべきではない事も、…。

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深海居士 門馬大和