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Advanced Marine Science
and Technology Society

堀田記念奨励賞 


第20回堀田記念奨励賞 令和6年6月11日表彰

受賞者

平岡 礼鳥 氏 ((株)日本海洋生物研究所)

受賞対象論文

数値シミュレーションを用いた魚類の環境DNA分解速度推定の試み〜伊勢湾口的矢湾を対象として〜(海洋理工学会誌、Vol.27, No.2(2022))

論文内容と受賞理由

本論文は、環境DNAの分析結果による時空間的な生物分布を把握する上で、重要となる分解速度について、環境DNA分布量の現場観測と数値モデルによるシミュレーションにより分解速度の推定が可能であることを明らかにしている。さらに今後リアルタイムPCRによる定量的な評価の実施、観測頻度を高めることで、現場における分解速度より精度の高い分解速度の推測が可能であることが示されている。精度の高い分解速度の推測が可能となれば、時空間的な生物分布の情報提供が可能となることから、本研究は、環境DNAの海洋研究における貢献ができる研究成果であり今後の研究の進展に期待できる。

第19回堀田記念奨励賞 令和5年6月9日表彰

受賞者

丸尾 哲平 氏 ((株)サイエンスアンドテクノロジー)

受賞対象論文

「大阪湾・播磨灘におけるイカナゴ生活史モデルの開発-低次栄養段階生態系モデルとの結合-」(海洋理工学会誌、Vol.27, No.1(2022))

論文内容と受賞理由

本研究は、低次生態系と高次栄養段階生物を繋げた新しい数値モデルを開発し、漁業対象生物の生活史を数値的に解析している。沿岸域における漁業対象生物に焦点を当てた研究は多くはないが、本研究はラグランジュ型モデルとオイラー型モデルを組み合わせ、さらには低次生態系の動態変化に伴う高次栄養段階生物の動態変化も解析可能なモデルを開発し、その結果を示したことは評価に値する。今後、より高度な技術で理工学的に社会に資することが期待できる。

第18回堀田記念奨励賞 令和4年6月10日表彰

受賞者

森 将人 氏 ((株)日本海洋生物研究所)

受賞対象論文

「三河湾六条潟周辺海域におけるアサリRuditapes philippinarum稚貝の餌料環境」(海洋理工学会誌、Vol.26, No.1(2020))

論文内容と受賞理由

森氏の論文は、3ヵ年のフィールド調査により河口域で増殖可能な植物プランクトンのうちクリプト藻類のような栄養価値が高く比較的小型(20μmより小さい)の種が、アサリ稚貝の餌料として重要であることを明らかにした。これまでこのような論文は無く非常に価値のあるものである。今後の研究の進展に大いに期待する。

第17回堀田記念奨励賞 令和元年5月30日表彰

受賞者

奥村 真子(ちかこ) 氏 (金沢大学理工研究域サステナブルエネルギー研究センター)

受賞対象論文

「ワカメ胞子体の色落ち現象に対する鉄欠乏の影響」 (海洋理工学会誌、Vol.24, No.1(2018))

論文内容と受賞理由

奥村氏の対象論文では、鉄欠乏とワカメ胞子体の色落ちの関係について各種実験を行った結果をまとめている。近年水産と環境分野で問題になっている海の貧栄養化によるノリやワカメの色落ち現象に対して窒素やリンのような栄養塩類だけではなく、鉄欠乏によっても色落ちが生じることを明らかにした。また、色落ちしたワカメ胞子体に対し、鉄を添加すると色彩は回復してもChl-a含有量は色落ちを経験していないものと比べて少ないままに留まり、品質の観点からは劣る可能性を示唆する、非常に興味深い結果を示した。これらの研究は、陸域と沿岸域の持続可能な利用を考える上で重要であり、今後さらなる研究の進展が望まれる。また、奥村氏は本論文の投稿時に査読者より受けた指摘に対し、速やかに追加実験を実施して考察を深め、研究に対して真摯に向き合い、責任を持って論文執筆を行った。この姿勢には若手研究者としての将来性を感じる。奥村氏は受賞対象論文以外にも、平成30年度秋季大会において「浚渫土砂からの微細藻類発生に対する光波長の影響」を発表、平成29年度秋季大会でも関連論文を連名で発表し、本学会において積極的に活動を行っている。

第16回堀田記念奨励賞 平成30年6月8日表彰

受賞者

井内 洋登 氏 (日立造船(株) 環境ソリューション運営計画グループ)

受賞対象論文

「全球規模大気・海洋間運動量フラックスにおける低風速域での抵抗係数モデ ルの相違の影響」(海洋理工学会誌、Vol. 22, No. 1(2016))

論文内容と受賞理由

井内氏の本学会誌に2報発表し、1報目は、大気海洋間の運動量フラックスを求める際の低風速域での抵抗係数について議論したものであり、6つの抵抗係数のモデルに関して検討を行っている。ここでは特に低風速の出現頻度が高い時に、モデルによって、有意な差が運動量フラックス推定に現れることを示し、低風速域での抵抗係数をパラメタ化することが、今後気候変動を論じて行く際に緊急の課題となることを示唆した。2報目は、気候変動に関連して、特にエルニーニョ、ラニーニャ現象が起きたときに全球規模で大気海洋間の運動量フラックスを代表的なCharnock の式と高木の式について比較検討を行い、結論として、平常時に比べて、エルニーニョ、ラニーニャ現象が起きたときには、月毎、緯度毎にフラックスに大きな相違が生じることを示し、気候変動予測の中で、どのようなモデルを使用するかで結果が異なってくる可能性を示唆した。大気海洋間の運動量フラックスの正確な推定は、気候変動研究での重要な課題であり、掲載された二つの論文は非常に価値のあるもので、今後の研究の進展を大いに期待する。

第15回堀田記念奨励賞 平成29年10月26日表彰

受賞者

高木 淳一 氏 (京都大学大学院情報学研究科)

受賞対象論文

「Simultaneous identification of multiple signals from phase modulation-coded transmitters for acoustic biotelemetry of fish school(超音波バイオテレメトリーを用いた魚類の群れ行動観測に向けた位相変調方式コード化ピンガーの複数同時識別)」(海洋理工学会誌,Vol. 22, No. 2, pp5-9, (2016))

論文内容と受賞理由

超音波位相変調方式コード化ピンガーを用いて、魚類の群れ行動をモニタすることを目的として、実際の観測対象海域に近い浅海域において、同時個体識別の精度を検証実験により示し、実用可能性を示した。複数個体の同時モニタリングの実現は、今後の魚群の行動生態研究に大きく寄与するものであり、今後の展開が期待される。

第14回堀田記念奨励賞 平成28年5月27日表彰

受賞者

野田 琢嗣 氏(統計数理研究所・日本学術振興会特別研究員)

受賞対象論文

「海洋生物の振動エネルギーの利用:より長期間の行動をモニタリングするための振動発電装置を搭載したバイオロギングシステムの検証」(海洋理工学会誌,Vol. 20, No. 1,No. 2, pp37-43,(2014))

論文内容と受賞理由

野田啄嗣氏は高度なバイオロギング技術を駆使して,魚類,ウミガメ,ペンギンなどの水圏生物の行動を明らかにするとともに、新しいバイオロギング測器を開発してきた。本論文では、魚類の尾びれ振動をもとに発電して観測期間を延長できる記録計を開発した。バイオロギング測器を用いた研究では、内蔵されている電池の容量が観測期間を制限することが多かったが、本成果により観測期間が大幅に延長する可能性が示された。昨今も新しい測器開発に取り組み、注目される研究成果を矢継ぎ早にあげている。これらの研究姿勢は若手研究者の奨励を目的とする本賞に相応しく、今後の研究の展開が期待される。

第13回堀田記念奨励賞 平成27年5月26日表彰

受賞者

小杉 知佳 氏(新日鐵住金株式会社技術開発本部先端技術研究所)

受賞対象論文

ノリの生育に対するスラグ系施肥の効果実証実験(海洋理工学会誌,Vol.17, No.1(2011))
転炉系鉄鋼スラグを用いた浚渫窪地埋め戻し時の海域環境改善予測(海洋理工学会誌,Vol.20, No.11&2(2014))
製鋼スラグを活用した海域底質からの微細藻類の増殖抑制(海洋理工学会誌,Vol.17, No.1(2011))

論文内容と受賞理由

小杉知佳氏は、海洋理工学会誌への投稿論文3本が掲載され、本会大会での口頭発表も多数行うなど、海洋理工学会で積極的に活動を行っている。小杉氏が勤務している新日鐵住金株式会社は製鉄過程においてCO2を発生させている企業として、その事実を真摯に受け止め、自社研究開発において、環境改善技術の研究を行っている。これら地球環境および社会に資する姿勢は本学会の理念と共通する。小杉氏の研究課題である製鋼スラグを用いた環境改善施策は、富栄養化海域・貧栄養化海域どちらにも幅広く適用できる可能性があり、さらには海洋酸性化にも適用できる可能性を秘めている。このため、今後さらに研究を進めることが望まれる。

第12回堀田記念奨励賞 平成26年5月24日表彰

受賞者

柳田 圭悟 氏((株)サイエンスアンドテクノロジー)

受賞対象論文

 東京湾における鉛、銅、銀の生態リスク評価
  柳田圭悟*、江里口知己*、小松原由美*、亭島博彦**、堀口文男***
  (*(株)サイエンスアンドテクノロジー、 ** (株)日本海洋生物研究所 、*** (独) 産業技術総合研究所 安全科学研究部門)
  海洋理工学会誌,Vol.17, No.2,pp111-118(2011)


論文内容と受賞理由

 柳田氏は、海洋理工学会誌2013年Vol.2まで含めるとファーストオーサー以外で5報が掲載されている。
 本論文では、国際的にも非常に関心の高い鉛はんだに使用されている鉛、および鉛の使用が禁止されて以降の鉛フリーはんだに使用されている銅、銀の環境中のリスク評価をMOE法により定量的に行っている。リスク評価は東京湾を対象海域とし、鉛、銅、銀について生態リスク評価を行っている。評価は東京湾に生息するマガキを対象生物として、各重金属における生態リスク評価を行っている。本論文は、東京湾におけるこれらの重金属に対する生態リスクについて、数値モデルを用い空間的な評価を行った日本初のものである。
 海洋における重金属の生態リスク評価研究に非常に有意義な論文であり、今後の研究成果が期待される。

第11回堀田記念奨励賞 平成25年5月17日表彰

受賞者

 大野 創介 氏((独)水産総合研究センター東北区水産研究所)

受賞対象論文

 沿岸生態リスク評価モデルによる東京湾の鉛はんだのリスクトレードオフ評価手法
  大野創介*
  *(独立行政法人水産総合研究センター東北区水産研究所)
  海洋理工学会誌, Vo18, No.2 (2012)


論文内容と受賞理由

 大野氏はこれまでに海洋理工学会誌に生態系モデル、物理モデル、化学物質のリスク評価モデル等の研究内容で5報掲載されている。対象論文では、人為起源に起因する鉛はんだの排出量をもとに環境水中濃度の推定, およびリスクトレードオフ評価を行っている。その結果、 鉛はんだから鉛フリーはんだへ代替することでリスクの軽減は確認された。しかし、鉛はんだの海域環境水中濃度は海域に存在する鉛の全濃度(人為起源+自然起源)に対して1%にも満たない。そのため、海域における鉛はんだの代替によるリスクの軽減は海域環境中濃度から見て、極めて僅かであることが示された。これらの結果は、欧州等の電子部品等の鉛はんだの使用規制に問題提示する貴重な論文となる。

第10回堀田記念奨励賞 平成24年5月25日表彰

受賞者

 田中 敏成 氏((独)港湾空港技術研究所)

受賞対象論文

 GPS波浪計の係留装置点検システムの開発ー水槽試験と調査に基づく実機校正の決定ー
  田中敏成*
  *(独立行政法人港湾空港技術研究所)
  海洋理工学会誌, Vol.16 No.1, pp1-10 (2010)

論文内容と受賞理由

 外洋域に設置した係留系を、半自立型水中ビークルを用いて点検するシステムおよびアルゴリズムを開発し、その性能について詳細な検討を行った。潜水士による現場作業が困難な海上での作業システムは、応用分野も広く、今後の展開が期待される。

第9回堀田記念奨励賞 平成23年5月13日表彰

受賞者

 茂木 博匡 氏((独)独立行政法人水産総合研究センター日本海区水産研究所)

受賞対象論文

 海洋炭素循環モデルによる深層域での動物プランクトン現存量の評価
  茂木博匡*、山本佑也**、岸 靖之**、中田喜三郎***
  *(独立行政法人水産総合研究センター日本海区水産研究所**環境総合テクノス***東海大学)
  海洋理工学会誌, Vol.16 No.1, pp35-44 (2010)

論文内容と受賞理由

多くの研究者によって、有光層での炭素循環モデルは、かなり実用的になった。それに対し、本論文では動物プランクトンに注目した、深層で有効な炭素循環モデルの開発を試みている。深層でのキャリブレーションは、データ量が少なく困難を伴い、掘削などの現場で使用できる実用的なモデルの完成が待たれる。本研究は、今後の海底資源探査・開発において、非常に重要になってくると考えられる。

第8回堀田記念奨励賞 平成22年5月21日表彰

受賞者

 石橋 正二郎 氏((独)海洋研究開発機構)

受賞対象論文

 回転運動がもたらす慣性航法誤差の軽減効果
  石橋正二郎*、吉田 弘*、月岡 哲*、百留忠洋*、澤 隆雄*
  (*(独)海洋研究開発機構)
  海洋理工学会誌, Vol.13 No.1, pp35-40 (2007)

論文内容と受賞理由

本論文は、現在主流のストラップダウン方式慣性航法装置に回転運動を印加し、位置誤差の軽減を図る手法に関する研究である。慣性航法装置は、水中を航行する移動体等において、自己位置を把握するために不可欠な機器である。しかし、位置誤差が時間と共に増大(蓄積)するため、巡航(長距離航走)型自立無人探査機の様な長時間水中を航行する移動体においては、十分な航行精度を保持する事は不可能である。提案の手法は、慣性航法装置センサのドリフト及びバイアス誤差を、回転運動により分離、キャンセルさせ、センサ誤差を軽減し、位置誤差の蓄積を大幅に抑制するものである。回転による位置誤差の軽減について、実験によって定量的に効果を評価した。更に、実機の動揺運動を模擬した環境下において、位置誤差の軽減効果を実測し、巡航型自立無人探査機に適用可能であることを実証した。従来、慣性航法装置の開発と性能向上は、センサのみに偏っていた傾向がある。本論文は、回転運動を印加して誤差を大幅に軽減する手法を提案し、基本性能を確認した。この手法は、ストラップダウン方式の慣性航法装置に汎用性を有する為、今後の実用化が期待される。若手研究者にふさわしいユニークな手法を提案し、有効性を実証した意義は大きい。



受賞者

 市川 哲也 氏((株)サイエンスアンドテクノロジー)

受賞対象論文

 海洋におけるトリブチルスズ(TBT)の分解生成物に関するモデル開発
  市川哲也*、江里口知己*、栗原路子**、橋本伸哉**、中田喜三郎***、堀口文男****
  (*(株)サイエンスアンドテクノロジー、**日本大学、***東海大学海洋学部、****(独)産業技術総合研究所)
  海洋理工学会誌, Vol.15 No.1, pp29-34 (2009)

論文内容と受賞理由

水域における有害化学物質のリスク評価研究では、水域に放出された時点の化学物質自体の環境濃度を利用して生物やヒトに対するリスク評価が行われてきた。また、それらの化学物質の環境濃度推定が可能な数値モデルも開発された。しかし、化学物質が放出された後の2次、3次の分解生成物に対するリスクについては議論されていない。近年、リスクトレードオフの研究が始まり、生物やヒトにリスクが認められた物質に対する代替物質のリスク評価や放出後の分解産物に対する対処が重要視されてきた。本研究で対象としているTBTは、底泥堆積物中においてブチル基を失い、ジブチルスズ(DBT)、モノブチルスズ(MBT)、無機スズに順次変化してゆく。分解に伴い次第に毒性は弱くなるものの、DBTは水域生物に対する急性毒性が強いとされている。そのため、リスク評価を行う上でこれらの分解生成物の環境濃度推定は非常に重要である。本研究では、東京湾におけるTBTの分解産物の環境濃度推定を可能にする数値モデルの開発と現地調査データとの検証を行ったものである。モデルは船底から放出されたTBTの底泥や水中における変化過程が組み込まれている。現地調査結果との検証においても高い精度の再現性が示されている。本モデルは今後のリスク評価研究に非常に有効となる研究の一つと考えられる。さらに、他物質についての2次、3次の分解生成物のモデル化へ進展が期待される。

第7回堀田記念奨励賞 平成21年5月15日表彰

受賞者

 堀内 智啓 氏(JFEアレック(株))

受賞対象論文

 植物プランクトン種組成測定のための生体励起蛍光スペクトルの特性抽出
  堀内智啓*、和田章嗣**、千賀康弘**、秋葉龍郎***
  (*JFEアレック(株)、**東海大学海洋学部、***(独)産業技術総合研究所)
  海洋理工学会誌, Vol.14 No.1, pp15-26 (2008)

論文内容と受賞理由

現場において植物プランクトンの種組成を識別定量する手法の開発を目的として、培養した植物プランクトン5綱11種の生体蛍光励起発光スペクトルの特徴と含有色素組成との関係を詳細に調べてその特徴波長を抽出し、4綱については、特定波長での蛍光励起スペクトル強度比から他種が混在していても抽出識別・定量が可能であることを明らかにした。この結果を利用して自社内で製品化し、現場海域に適用して成果を挙げるとともに、更なる改良を試みており、今後の活躍が期待される。



受賞者

 江里口 知己 氏((株)サイエンスアンドテクノロジー)

受賞対象論文

 東京湾における有害化学物質のリスクトレードオフの研究-TBTからCuPTへの代替-
  江里口知己*、伊東永徳*、市川哲也*・**、亭島博彦***、中田喜三郎****、堀口文男*****
  (*(株)サイエンスアンドテクノロジー、**(株)中電シーティーアイ、***(株)日本海洋生物研究所、****東海大学海洋学部、*****(独)産業技術総合研究所)
  海洋理工学会誌, Vol.13 No.1, pp21-33 (2007)

論文内容と受賞理由

大型船舶の船底防汚剤として使用されてきたトリブチルスズ化合物(TBT)が海洋生物に有害影響及ぼす報告が数多くなされ、国際海事機構(IMO)は2007年にその使用を禁止することを決定した。これを受け、非スズ系新規船底防汚剤(銅ピリチオン(CuPT)等)が開発され、使用されてきた。本論文は船底防汚剤のTBTからCuPTへの移行に際してリスクトレードオフとなっているかどうかについて、議論・検討したものでリスク研究では先駆け的論文である。研究は東京湾を海域事例として、観測及び実験データを利用し、高精度・高分解能の生態リスク評価モデルにより、生態系の維持、マガキの石灰沈着異常、バフンウニの発生阻害についてリスクトレードオフの研究を行ったものである。今後、これらに対する費用対効果について研究を進めることにより、世界でも類を見ない成果となるであろう。この成果は海洋理工学の発展へとつながるものと考え、堀田記念奨励賞に推薦する。

第6回堀田記念奨励賞 平成20年5月16日表彰

受賞者

 中西 喜栄 氏(いであ(株))

受賞対象論文

 タイ国リボン島周辺の海草藻場におけるジュゴンの食み跡の分布調査
  中西喜栄*、細谷誠一*、中西佳子**、荒井修亮***、Kanjana Adulyanukosol****
  (*いであ(株)、**沖縄環境調査(株)、***京都大学大学院情報学研究科、Phuket Marine Biological Center)
  海洋理工学会誌, Vol.11 No.1, pp53-57 (2005)

論文 内容と受賞理由

本論文は、絶滅が危惧されているジュゴンの生態を解明するうえで基礎的な情報である食み跡の分布状況を、数年間にわたりタイ国リボン島周辺の海草藻場で調査した結果である。研究成果だけでなく、民間企業に在籍しながらも研究を継続する著者の姿勢は、若手研究者への研究奨励を目的とする本賞に相応しい。

第5回堀田記念奨励賞 平成19年5月18日表彰

受賞者

 相馬 明郎 氏(みずほ情報総研(株))

受賞対象論文

 貧酸素海域の生態系評価を目的とした内湾複合生態系モデル” ZAPPAI(雑俳)"の開発と適用
 -干潟創生、浚渫、覆砂、流入負荷削減施策に対する東京湾生態系の自律的応答と赤潮に対する耐性-
  相馬明郎*、関口泰之**、垣尾忠秀*
  (*みずほ情報総研(株)、**YS環境情報事務所)
  海洋理工学会誌, Vol.11 No.2, pp21-52 (2005)

論文内容と受賞理由

内湾の生態系は外洋に比べると極めて複雑である。湾央浮遊生態系、干潟・浅海生態系、湾央底生生態系という3つの極めて性質の異なる生態系が、相互に影 響しあっているからである。著者らは複雑な内湾生態系を極力簡略化せずに3つの生態系を統合化してモデル化している。そのモデルは環境改善のための施策の 評価にも使われている。視点の広さ、問題の取り組み方の徹底さは抜きんでたものがある。

第4回堀田記念奨励賞 平成18年5月19日発表 平成18年10月24日表彰

受賞者

 三田村 啓理 氏(京都大学大学院)

受賞対象論文

 バイオテレメトリーによるメコンオオナマズの生態解明の研究
  (1)三田村啓理、光永靖、荒井修亮、田中秀二、Thavee Viputhanumas
    人口湖におけるメコンオオナマズの日周深浅移動[速報]
    海洋理工学会誌, Vol.9, No.2, pp209-214 (2003)
  (2)横田高士、三田村啓理、荒井修亮、光永靖、竹内宏行、津崎龍雄、井谷匡志
    超音波バイオテレメトリーを用いた魚類の行動追跡手法−若狭湾および舞鶴港におけるアカアマダイの研究例−[速報]
    海洋理工学会誌, Vol.10, No.1, pp29-40 (2004)
  (3)山岸祐希子、荒井修亮、光永靖、三田村啓理、Thavee Viputhanumas
    自動魚体回収装置の開発とメコンオオナマズの回収実験[速報]
    海洋理工学会誌, Vol.10, No.2, pp51-57 (2004)

論文内容と受賞理由

 三田村氏は、高度な情報技術を駆使したバイオテレメトリー技術を魚類に適用し、数多くの業績を上げている。特に絶滅危惧種、メコンオオナマズの生態解明 の研究において顕著な成果を挙げ、海洋理工学会シンポジウムにてその業績の一端を講演するとともに、速報として論文を発表した。
 三田村氏は、期間短縮で京都大学の博士(情報)学位を取得するとともに、日本学術振興会の特別研究員として、引き続き京都大学大学院情報学研究科のポス ドク として研究をさらに深化させるべく、ノルウェーの研究機関との共同研究を新たに開始している。これらの業績および研究姿勢は、若手研究者への研究奨励を目 的 とする本賞に相応しい。

第3回堀田記念奨励賞 平成17年6月2日表彰

受賞者

 来田幹生氏((株)マリン・ワーク・ジャパン)

受賞対象論文

 海水中の全炭素濃度の測定:船上測定の信頼性向上の試み
  来田幹生*、鎌田稔*、柴田冬樹*、大濱妙子*、茂呂正樹*、藤木徹*、村田昌彦**
  (* (株)マリン・ワーク・ジャパン、** (独)海洋研究開発機構)
  海洋理工学会誌,Vol.10,No.1,pp17-27(2004)

論文内容と受賞理由

 観測現場で発生した問題点を的確に把握し、ステップバイステップに解決し、目的の観測精度を達成した意義は極めて大である。地球温暖化ガスとして注目さ れている、二酸化炭素の海洋における挙動を正確に把握する上で、現場における高精度の分析技術は不可欠である。論文では触れられていないが、2003年に JAMSTECの調査船「みらい」で行った、南半球周航航海(BEAGLE 2003)には本成果が反映され、成功に大きく貢献した。成果の社会的貢献度および、観測現場を支える技術者による前向きな取り組みは、若手研究者および 技術者の育成を目的とする本賞に相応しい。

第2回堀田記念奨励賞 平成16年5月14日表彰

受賞者

 植田真司氏 (財団法人環境科学技術研究所 環境動態研究部)

受賞対象論文

  核燃料リサイクル施設に隣接する汽水湖尾駮沼における流動モデルの開発
  植田真司*、近藤邦男*、稲葉次郎*、細田昌広**、横山瑞江**、中田喜三郎***
  (* (社)環境科学技術研究所、** 国土環境()、***東海大学海洋学部)
  海洋理工学会誌,Vol.9,No.2(2003)

論文内容と受賞理由

 六ヶ所村にある汽水湖、尾駮沼への放射性核種の蓄積過程を数値モデルで解析するための基本となる流動モデルを構築し,流動および塩分の実測値と比較して モデルの再現性を詳細に検証し、問題点も明らかにした。 植田氏は継続的な現場観測を行いながら、このモデルの改良とともに生態系モデルとの結合による放射性核種移行モデル構築に精力的に取り組んでおり、今後の 成果が期待される。

第1回堀田記念奨励賞 平成15年5月16日表彰

受賞者

 光永 靖氏(近畿大学農学部)
  生年月日 昭和47年6月11日

受賞対象論文

 水温・水深データロガーによるマダイの遊泳行動の長期間記録
  光永 靖、荒井修亮、坂本 亘
  海洋理工学会誌,Vol.8,No.1,pp25-33(2002)

論文内容と受賞理由

 本研究はバイオテレメトリー技術の一つであるデータロガーを利用して、マダイの行動生態を約半年間に渡り記録することに成功し、その遊泳行動の特徴を明 かにするとともに、固体のエネルギー収支についても解析したものである。このような長期間に渡る記録・解析例はこれまでになく、この成果は今後の栽培・管 理漁業の維持・発展に重要な指針を与えるものであり、さらなる研究の展開が期待される。

海洋理工学会

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