業績
国内外における海洋科学の推進を主導及び後進育成、啓発活動への貢献
受賞者
道田 豊氏 東京大学大気海洋研究所
業績の大要
道田豊氏は、東京大学理学部地球物理学科を卒業後、理学系研究科修士課程を経て海上保安庁水路部へ入庁し、海洋表層の流れの構造や変動、海流による物体の輸送、拡散、分散を主たるテーマとして研究を推進されました。
具体的には、舶用波浪計を用いた外洋波浪計測に関する研究や、漂流ブイ・船舶搭載ADCP等による表層循環に関する研究、南極昭和基地における水位の長期変化に関する研究に携わり、さらにインドネシア通過流の変動、亜熱帯反流の構造、海洋表層の分散過程の解明、海洋表層の収束発散場の評価に関する研究などで多くの成果を挙げています。水路部海洋調査課等を経て水路部企画課補佐官に就任した後、1999年に「Structure of the Kuroshio and the surface Ekman layer by current data analysis of shipborne ADCP(船舶搭載型ADCPデータの解析による黒潮及び表層エクマン層の構造)」の研究テーマで東京大学博士号(理学)を取得されました。同論文の内容の一部は海洋理工学会誌に掲載され、同学会平成13年度論文賞を受賞しています。
2000年には、東京大学海洋研究所に移籍し、大学院教育にも大きく貢献しています。
学術・教育活動に加え、海洋情報管理をはじめとする海洋政策にも大きな実績を有し、関連する報文も多数執筆しています。とりわけ国際的活動においては、国際連合教育科学文化機関(UNESCO)政府間海洋学委員会(IOC)における活躍が華々しく、2011年から2015年の間、日本人として40年ぶり2人目となる副議長に選出され、津波関係事業等の国際間の調整などの課題解決に尽力されました。具体的には、2004年のインド洋津波を契機として設置された「津波その他海面水位に関係する災害警報システム」作業部会では、議長として4回の会合を主催し、インド洋を含む4つの海域の津波警報に関する国際間調整に関する議論を取りまとめ、太平洋に加えて各海域でシステムの運用が開始されるなど、世界の津波警報システムの整備に大きく貢献されています。これらの活動が評価され、2015年には第8回海洋立国推進功労者表彰(内閣総理大臣賞)を受賞しています。
また、2017年には「国連海洋科学の10年」の計画策定に参画し、国連総会への提出に尽力されました。具体的には、持続可能な開発目標(SDGs)に直結する7つの社会的目標を定め、海洋科学を強力に推進しながら私たちが直面する課題の解決を目指す内容にまとめあげています。さらに、2021年からは「国連海洋科学の10年 日本国内委員会」の委員として国内での推進を主導しています。その中でも、海洋プラスチックごみの課題に対しては2019年から日本財団‐東京大学のプロジェクトリーダーとして、また、漂着物学会会長としても活躍されています。多くの学校での講演や一般社会へ向けた啓発活動を通じて活発な情報発信を行なっており、国内外のこの分野の第一人者と認められています。
海洋理工学会においては、上述の通り論文賞を受賞したほか、2001年から継続して理事を務めています。
現在は、ユネスコ政府間海洋学委員会(IOC)において、日本人として初となる議長として活躍し、世界の海洋科学推進の司令塔として邁進しています。これらは誠に顕著な功績であると考えます。
業績
衛星データを利用した海況変動解析の研究
受賞者
江淵 直人氏 北海道大学低温科学研究所
業績の大要
江淵直人氏は、これまでに衛星搭載能動型マイクロ波センサーによる海面の観測、マイクロ波散乱計およびマイクロ波放射計を用いた海上風の観測、マイクロ波放射計を用いた海面塩分の観測、マイクロ波高度計および散乱計データと現場観測データを組み合わせたオホーツク海表層循環の季節変動および経年変動研究、海洋レーダおよび現場観測データを用いた宗谷暖流の研究、航空機搭載合成開口レーダ,衛星散乱計データ,海洋レーダを用いた海氷域観測、マイクロ波高度計および潮位データを用いた北海道沿岸の海況変動の研究等を通して、日本の海洋学及び海洋理工学の歴史に顕著な業績を残した。海洋理工学会においても学会発足当時より25年間にわたり評議員、理事等を歴任され、ご尽力されてきた。
令和2度顕功賞
業績
海洋理工学会の安定的運営等に対する貢献
受賞者
石田和憲氏(KANSOテクノス)
業績の大要
石田和憲氏は、2013年から今日迄、海洋理工学会副会長を務めて来た。
企業人として特に学会の安定的運営に腐心され、従来の不安定な運営の立直しに大きく貢献した。
学会は、研究理念に基づいて設立され、会員を募り、会費徴収、会誌発行、大会開催等を行っている。本学会の様に、小規模かつ歴史の浅い学会の場合、比較的最近迄、大学研究室レベルで会の事務と運営が行われて来た。しかし、昨今の大学においては、その様な余裕もなくなったが、専門の学会運営機関に委託する資金的余裕もなかった。そこで、有志会員と、所属企業の好意に、全面的に頼る事となった。この献身的努力により、暫く順調に運営が行われて来たが、数年前、担当会員が突然不幸に見舞われた。
この経験から、組織の運営を、個人に依存する体質を改め、複数の幹事会社が、業務を役割分担する体制に改めた。この体制も、幹事会社の都合等により、恒久的なものではない。そこで、学会誌発行、会費徴収、会員管理等、会の運営に、基本的重要事項について、専門の運営機関に委託する事とした。
以上の、安定的な学会運営の確立に当って、石田副会長は、当初から熱意を持って、主導的立場で推進した功績は大である。所属する環境総合テクノスにおいては、1990年から今日迄、30年に亘り、海洋環境高精度調査技術の発展を牽引して来た。従来の海域環境調査は、1967年8月に制定された公害対策基本法における水質汚濁に関連するものが主であった。これらの調査は環境基準や水産用水基準等に基づき行われ、これら基準値との比較や大まかな変動を解析することが主で、高精度に時空間的な変動を把握する調査は余り行われなかった。
この様な時代の中、1990年度から、大気中二酸化炭素濃度の上昇に伴う、地球温暖化解明の為の北西太平洋海域における二酸化炭素循環メカニズム研究プロジェクトが、通産省工業技術院から(株)関西総合環境センター(現、KANSOテクノス)に委託された。公害資源研究所、地質調査所および大学研究者の協力により、白嶺丸(金属鉱業事業団所属)による年間120日航海を伴う研究が開始された。石田和憲氏は企業代表としてプロジェクトを立上げ、円滑に進めた。プロジェクトは7年間続き、二酸化炭素海洋隔離に伴う環境影響予測技術開発プロジェクトへと発展して10年間継続され、IPCCにも調査結果を提出した。ここで培われた高精度海洋環境調査技術は、2008年3月制定の海洋基本計画における海底資源開発環境ベースライン調査に大いに役立ち、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP、2014年〜)では民間企業に広く展開された。
令和元度顕功賞 令和元年5月27日表彰
業績
無人観測船の先駆的開発と運用への貢献
受賞者
千賀康弘氏(東海大学海洋学部)
業績の大要
千賀康弘氏は1993年より約25年に渡り、長時間・長距離航海と定点観測を目的とした無人観測船の開発と運用に尽力し、多くの海洋関連企業を指導しながらその実用化を目指してきた。関係した各企業では多くのノウハウが蓄積され、新製品の開発に生かされてきた。具体的には、1993年に風力を動力源とし、セールを制御して移動させるヨット型自律無人観測船を開発、1999年には外洋での運用を目標としたディーゼルエンジン搭載無人船「かんちゃん」を開発した(科学技術振興機構戦略的基礎研究推進事業、代表者東大海洋研植松光夫氏)。「かんちゃん」は主に本州の20〜100海里沖合の太平洋上で運用実験を行い、2003年の事業終了までに総移動距離3,420km、CTD観測合計343回を達成した。2011年には、東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所事故による福島沿岸海域への放射能拡散を無人でモニタリングする目的で「かんちゃん」に改良を加え、2013年からは新たに「windy-3S」として、定期的な観測を実施してきた。これらの開発には、ヤマハ発動機(株)、紀本電子工業(株)、アレック電子(株)(現JFEアドバンテック(株))、(株)ゼニライトブイなどの各企業が加わり、運用には(有)ソエレック、(株)ウインディネットワーク、松川浦マリーナなど多数の海洋関連企業の協力体制を構築した。また海洋理工学会においては、長年、理事、幹事として、平成28年度より3年間は会長として、学会の発展・振興に大きく貢献されてきた。
平成28年度顕功賞 平成28年5月27日表彰
業績
バイオロギング技術を駆使した水圏生物行動学の発展への貢献
受賞者
荒井修亮氏(京都大学フィールド科学教育研究センター)
業績の大要
荒井修亮氏は長年にわたり一貫して水圏生物の生態に関する広範な研究に取り組まれ,多くの研究成果をあげられるとともに国内外問わず多数の優れた人材を輩出された。特に、バイオテレメトリーや音響技術の技術開発をおこなうとともに、それらの技術を駆使して国内外の魚類、ジュゴンなどの哺乳類そしてウミガメなどの爬虫類の生態を明らかにして、海洋理工学、水産学の発展に寄与された。また,東南アジア諸国の研究者との共同研究を積極的かつ活発におこない、技術移転にも尽力された。海洋理工学会においては、理事、幹事会の一員,特に平成25 年度より会長として海洋理工学会誌のオンライン化などに尽くされ、学会の発展や振興に大きく貢献されてきた。
平成27年度顕功賞 平成27年5月26日表彰
業績
海洋調査技術の開発への貢献
受賞者
門馬大和氏(日本海洋事業株式会社)
業績の大要
門馬大和氏は、日本における本格的な海洋調査研究の黎明期より、海洋調査技術の開発に全力を尽くされた。海洋科学技術センター(現 国立研究開発法人海洋研究開発機構)創設期の主要メンバーの一人であり、特に深海曳航体等を用いた探査技術、深海底長期観測ステーションの開発等に尽力された。その成果はナホトカ号の沈没調査や、H2ロケットのエンジン捜索等に結実されている。また、海洋研究開発機構では研究業務部長等の要職に当たり国内外の海洋調査研究の円滑かつ安全な実施に貢献するとともに、海洋技術者育成を目的とした「海洋技塾」を立ち上げ、技術伝承を図るなど、後進の教育にも大いに貢献された。これらと並行して当海洋理工学会の、理事会および幹事会のメンバーとしても長らくご尽力され、海洋理工学のコミュニティ形成に大いに貢献された。
平成26年度顕功賞 平成26年5月24日表彰
業績
伊勢・三河湾の環境保全・干潟再生や水産漁業の発展に対する尽力と海洋理工学会発展への貢献
受賞者
鈴木輝明氏(名城大学)
業績の大要
伊勢・三河湾を中心として、富栄養化機構の解明、赤潮発生機構の解明、貧酸素水塊の発生機構の解明、干潟域の水質浄化機能の定量化等の多くの研究を通して、伊勢・三河湾の環境保全、干潟の再生、水産漁業の発展に30年以上に渡り尽力されてきた。これらの研究を通して海域環境モデルや干潟域のモデルの発展にも尽力されてきた。社会的活動においても、国交省中部地方整備局「名古屋港浚渫土砂活用方策検討委員会」委員、経済産業省産業技術環境局「閉鎖性海域の汚濁メカニズム検討対策調査委員会」委員、農林水産省農林水産技術会議 先端技術を活用した農林水産研究高度化事業研究課題評価分科会委員等を含め30余の委員として活躍された。海洋理工学会においても、平成16年以降理事として、学会の運営にご協力いただいた。これらの研究活動や各省庁の委員会活動は、水産学、環境学、海洋理工学の発展に多大なる影響を与えた。
平成25年度顕功賞 平成25年5月17日表彰
業績
国産海洋観測機器の開発・普及への貢献
受賞者
岩宮 浩 氏(鶴見精機)
業績の大要
岩宮氏は、長年にわたり海洋の調査、研究に海洋観測機器を提供し海洋科学の発展に多大なる貢献をされました。また、海洋理工学会においては、前身である海洋工学コンファレンス設立時(1989年)より賛助会員として支援いただき、自身も発足当時から理事を長年にわたり務めるとともに、1998年から2004年まで監査とし本会の発展のために多大な貢献をしていただいた。
平成24年度顕功賞 平成24年5月25日表彰
業績
国産海洋観測機器の開発・普及への貢献
受賞者
小梨昭一郎 氏(JFEアドバンテック)
業績の大要
国産海洋観測機器の開発・普及を目指し、アレック電子株式会社を世界が認める海洋観測機器メーカに育て上げてきた。開発された機器は国内外の多くの研究者に利用され、日本のみならずアジア各国の沿岸海洋研究の発展に大きく貢献している。学会活動においては、Marine
Technology Society日本支部理事、Techno Ocean Exhibition Committee委員長を歴任し、国際的にも、海洋研究を支える観測機器の開発・普及を啓発・推進してきた。海洋理工学会においては、前身である海洋工学コンファレンス設立時(1989年)より支援いただき、2003年5月から理事、2007年5月からは副会長として本会の発展のために多大な貢献をしていただいた。
平成22年度顕功賞 平成22年5月21日表彰
業績
地震防災に対する優れた業績ならび海洋理工学会発展への貢献
受賞者
藤縄 幸雄 氏(NPOリアルタイム地震情報利用協議会)
業績の大要
藤縄幸雄氏は昭和40年東京大学理学部卒業後、国立防災科学技術センター(現:防災科学技術研究所)に入所され、同センター平塚支所観測タワー(波浪等観測塔)における波浪観測および施設維持にご尽力され、波浪測定装置の開発、地球流体力学アプローチによる海洋の波の発生および波による海面の乱れと風の相互作用に関する研究、周期の異なる波浪の研究など多くの研究成果を発表されました。海底地震活動および地震観測の研究も精力的に進められ、1990年に国立防災科学技術センターから防災科学技術研究所に名称変更が行われた後、測定装置開発のご経験を活かし、2008年に早世された岩崎伸一氏とともに相模湾海底地震観測施設の整備にご尽力されました。本施設には氏のアイデアにより、地震計の他に、地殻変動観測のための傾斜計と津波監視用の水晶圧力計が装備されました。この後も津波の発生、地震、防災の研究に更に深く取り組まれ、GPSを用いた地殻変動観測、自己浮上式海底地震計を用いた地震観測、微小地震の観測によるテクトニクスや地震予知の研究でも多くの成果を挙げられました。更に、地震予知に関し、地球電磁気学を取込まれ、地震発生直前の地中や海底の電界変動発生の可能性を提唱され、その観測に携われました。防災科学技術研究所をご退職後は、特定非営利活動法人リアルタイム地震情報利用協議会専務理事として、一般市民生活における減災のための情報ネットワークの完成に腐心される日々を送られています。この間、1981年には科学技術庁長官賞を、1993年には科学技術研究功労賞を授与されています。また平成13年から16年の4年間に亘り、海洋理工学会の会長を務められ、若手研究者の育成、速報論文の採用など、新たな試みをいくつも提案され、本会の発展にご尽力下さいました。
平成18年度顕功賞 平成18年5月19日発表 平成18年10月24日表彰
業績
沿岸域の物理および生態系モデル開発に関する先駆的研究とその普及に関する社会貢献
受賞者
中田 喜三郎 氏(東海大学海洋学部)
業績の大要
中田氏は、経済産業省資源環境技術総合研究所に入所以来、現在の東海大学海洋学部環境情報工学科教授に至るまで、30年以上にわたり日本の海洋学、海洋工学の発展に尽力されてきた。資源環境技術総合研究所時代は、当時の通商産業省で行われていた工場立地法に基づいた産業公害総合事前調査における調査指導、あるいはこれらの調査研究を通して沿岸域における調査手法の研究を行ってきた。特に、沿岸域の物理モデル、生態系モデルのモデリングにおいては日本における先駆者の一人である。これらのモデルを発展させるための論文、レビュー、著書等は、日本をはじめ海外においても多数である。さらに、海洋理工学会(前身の海洋工学コンファレンス)においても副会長の任務や学会誌の編集にご尽力され、学会の発展にご努力されてきた。